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名古屋高等裁判所 昭和60年(う)163号 判決 1985年8月07日

本店所在地

名古屋市西区児玉三丁目二八番一〇号

三晃

株式会社

右代表者代表取締役

山下辰彦

右の者に対する法人税法違反被告事件について、名古屋地方裁判所が昭和六〇年四月一九日言い渡した判決に対し、原審弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官平田定男出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人草間豊が作成した控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官平田定男が作成した答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用するが、控訴趣意の要旨は、原判決の量刑が重過ぎて不当であるというのである。

所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、諸般の情状、特に本件各犯行によるほ脱金額は二期(昭和五六年四月一日から昭和五八年三月三一日までの所得に対する法人税のほ脱)合計で二九五五万四五〇〇円という高額に達しそのほ脱率(総法人税額に対するほ脱総額の割合)は約四〇・五パーセントと高率である上、その手段、方法も、期末の実地棚卸金額が在庫明細表により確認されているのに数量除外をするなどして故意に除外し正規の帳簿書類に計上せず(在庫の圧縮)、仕入の事実がないのに大手三社の取引金額に水増し計上して支払は手形で行ったとし、この手形を東海銀行の二支店で実在しない「土井尚」名義の普通預金口座を使って取り立てていたもので、これらによって得た資金は被告人会社代表者個人の生活費、役員賞与、取引先への接待費等に充てていたもので、これらを正規の帳簿書類に計上せず取引の一部を隠ぺいし又は仮装していたことを考慮すると、被告人会社の刑責は重いといわなければならない。それ故、被告人会社は昭和四八年五月ヤマダヤ商事有限会社の倒産等により約五六〇〇万円の不良債権が発生し、仕入難となり倒産の危機に陥り、この苦しい体験から増資により会社の財務内容をよくしようと考え脱税を犯すに至ったものであること、被告人会社代表者は国税当局による本件査察以来率直に自己の不正を認めてきたこと、被告人会社は本件各犯行後追徴金等のすべてを完納し、再犯防止を期していることなど酌むべき諸事情を十分斟酌しても、被告人会社を罰金一〇〇〇万円に処した原判決の量刑はやむをえないものであって重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本卓 裁判官 杉山修 裁判官 鈴木之夫)

昭和六〇年(う)第一六三号

○ 控訴趣意書

被告人 三晃株式会社

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴趣意を、次の通り述べる。

昭和六〇年七月五日

私選(一審も)

右弁護人 草間豊

名古屋高等裁判所 刑事第一部 御中

一 公訴事実について

被告人は、公訴事実に対しては、捜査手続、公判手続に於いて、全て認めている。

二 情状について

(一) 脱税に至る動機

被告人は、被告人会社代表取締役山下辰彦が、私利私欲の目的で脱税を意図したものではない。

被告人は、昭和五二年、ヤマダヤ商事有限会社の倒産等により、約金一億二、五〇〇万円の負債を負い、倒産の危機に瀕した。幸い、被告人の倒産は免れたものの、被告人は、いざという時、会社の財産を強固にしておかなければと考え、他に採るべき手段があるにもかかわらず、安直に脱税による手段を採ってしまったものである。その結果、資本金の増加、取引先への資本投入という形で、犯罪行為を犯したものであり決して被告人の代表者の資産を増加させるという目的で本件犯罪を意図したものではなく通常の脱税とは目的を異にするものである。

(二) 脱税行為について

被告人の脱税行為は極めて単純であり、専門家の調査があれば、直ちに露見するものであった。国税局もいとも簡単に犯罪行為を摘発しており、世間を騒がす同種脱税行為とは態様を異にしている。

(三) 被告人には、当然の如く、前科はなく、本件犯行に至るまで、優良法人として納税をしている。本件犯行後、追徴金等も全て完納し、本来の正規納税額をはるかに越える納税をしており、脱税行為がいかに馬鹿な愚かなものであることを充分肝に命じ、被告人代表者も反省をしており、再犯の恐れはない。

右の通り、動機、行為態様、反省、追徴金の支払等により、被告人に罰金一、〇〇〇万円を科した判決は重すぎるものであり、減刑ありたく上申する。

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